世にも奇妙な「異名」の世界
ようこそ「異名」の世界に
番組初期は視聴者から投稿されたダジャレ、替え歌などの言葉遊び、
通称「ボキャブラ」をパネリストの意見を参考に司会であるタモリが品評する
というものであったが第3シリーズにあたる「タモリの超ボキャブラ天国」からは
芸人によるネタと「ボキャブラ」を組み合わせた作品をランキング形式で評価する
というものになった。
この番組シリーズで人気が出たお笑い第四世代の芸人が多くいるのだが、
僕が当時気になっていたのはネタだけではなかった。
それは芸人につけられたキャッチフレーズである。
【不発の核弾頭】爆笑問題
【電光石火の三重殺(トリプルプレイ)】ネプチューン
【戦慄の不協和音】フォークダンスDE成子坂
芸人のキャッチフレーズとは思えない素晴らしいワードセンス。
極めて少ない言葉で芸人のキャラクターや芸風を表現している。
「異名」はイメージの言語化であり芸術である
異名、渾名、二つ名などの人物の側面を表す言語表現は色々ある。
僕は異名に文学性を感じずにはいられない。
文学の定義は「言語によって表現される芸術作品」だ。
異名とはイメージの言語化である。
例えば【皇帝】という異名。
サッカー界の【皇帝】といえばフランツ・ベッケンバウアーだ。
背筋が伸びた姿勢、圧倒的なテクニック、高い統率力で試合をコントロールする
その姿はまさにピッチに君臨する【皇帝】といえよう。
また、オーストリア皇帝フランツ1世(神聖ローマ皇帝フランツ2世)とファーストネーム
が同じであったことも由縁のひとつだといわれている。
競走馬のシンボリルドルフも神聖ローマ皇帝ルドルフ1世の名を持ち、史上初の
無敗三冠馬、通算七冠という偉業を達成したことから【皇帝】と呼ばれている。
【皇帝】という異名は「圧倒的な実力」「絶対的な存在感」といったイメージ
を言語化したものだが、ベッケンバウアーやシンボリルドルフの場合はそれに加えて
自身の名前が【皇帝】に関連することでより相応しく感じるのだ。
【皇帝】は2人もいらない!?組み合わせた「異名」は唯一無二
そもそも異名を付けるということは他者との違いを表現することだ。
強い。速い。巧い。美しい。
このような形容を如何に際立たせて言葉にすることが出来るか。
そうなると同じ異名というのはやや説得力に欠けてしまう。
先程の例で言うと【皇帝】という異名を持つ選手がサッカー界に存在した場合、
ベッケンバウアーやシンボリルドルフが唯一無二である印象は薄れてしまう。
限りある中で重複しない異名を付けるには?
それが異名を組み合わせることだったのではないだろうか。
かつて【皇帝】ベッケンバウアーが在籍していた強豪バイエルン・ミュンヘン。
そのバイエルン・ミュンヘンに加入し、その活躍からベッケンバウアーの後継者と
呼ばれた選手、ミヒャエル・バラックの異名は【小皇帝】である。
189cmと大柄なバラックに”小”というのは似つかわしくないように感じる。
これについてバラックはインタビューで以下のように話している。
――君はキャリア最初のクラブ、ケムニッツァーでは「クライネ・カイザー」(小さな皇帝)と呼ばれたそうだけど、君は体が大きいし、「カイザー」と呼ばれたフランツ・ベッケンバウアーのようなプレーヤーでもない。なぜそんなニックネームになったの? マイク・バスキン(キングストン)
バラック ベッケンバウアーみたいに頭を上げて走っていたからだと思う。だけど、本物の「カイザー」は特別な存在だった。あれほど偉大なプレーヤーと比較されるのは簡単なことじゃなかったね。
つまりプレースタイルや容姿に共通点があったというよりは将来有望な選手への
期待と偉大なる先人への敬意を共立させた異名なのである。
異名に限らず創作は先着順だ。
それでも先人に敬意を払いつつ、出尽くしたアイデアの先に進もうと足掻く。
今日もどこかで新しい異名が生まれているかも知れない。
異名構文を紐解くために
異名に使われる言葉を以下のように分類してみた。
①〈地域〉
②〈特技〉
③〈称号・役職〉
④〈外見〉
⑤〈捩り・語呂〉
⑥〈実績・経歴〉
⑦〈先人踏襲〉
⑨〈例え〉
他にもまだあるかも知れないがまずはこんなところ。
それぞれのカテゴリーについて書いていこうと思ったが思いのほか記事の
ボリュームが大きくなってしまった。
引き続き調査しながら独立した記事として書いていこうと思う。
まずはここまで。